結論:東京商工リサーチ(TSR)によると、2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」倒産は240件で、前年同期比17.0%増、調査開始後の年度上半期として過去最多でした。人件費高騰を要因とするものが130件で半数を超えています。ただし、これは全国の倒産すべてが人手不足を原因とするという意味ではなく、民間調査の定義に基づく集計です。
この記事の基準時点は2026年10月5日15時00分ごろ(日本時間)です。最低賃金は全国で一斉に同じ日に変わるのではなく、都道府県ごとに2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効します。倒産件数と賃金改定の間に直接の因果関係が確定したわけではない点も分けて確認します。
2026年度上半期の人手不足倒産は240件
TSRは、2026年度上半期(4〜9月)の人手不足倒産を240件と発表しました。前年同期の205件から35件増え、増加率は17.0%です。2021年度上半期の26件を底に5年連続で前年同期を上回り、2013年の調査開始以降で最多になったとしています。
ここでいう「過去最多」は、TSRが同じ方法で集計した年度上半期の比較です。政府の倒産統計そのものが240件と認定した数字ではなく、調査会社が個別の倒産事例を抽出した結果であることを押さえておく必要があります。
「人手不足倒産」に含まれる3つの要因
TSRは、人手不足に関連する倒産を、求人難、従業員の退職、人件費高騰の3要因から抽出しています。後継者難は別の問題として対象から除外しています。
したがって、「人手不足倒産」と聞いても、全件が採用難だけで起きたとは限りません。人を集めるための賃上げ、退職を防ぐための待遇改善、採用できないことによる受注制限など、個別企業の事情は異なります。
人件費高騰が130件、半数を超えた
人件費高騰を要因とする倒産は130件で、前年同期の74件から75.6%増え、人手不足倒産全体の54.1%を占めました。採用難への対応や離職防止のために賃金を上げても、売上や価格転嫁が追いつかなければ資金繰りが厳しくなる企業がある、という構図です。
ただし、TSRの数字だけから「賃上げが倒産を増やした」と断定することはできません。原材料費、光熱費、借入金利、受注量、価格転嫁の程度などが企業ごとに違うためです。公表資料が示すのは、倒産事例の要因として人件費高騰が増えたという範囲です。
小規模企業と労働集約型産業に集中
資本金1千万円未満の企業は159件で、全体の66.2%でした。形態別では破産が229件で95.4%を占めています。資金余力が限られる企業ほど、人材確保のためのコスト増を長く吸収しにくい可能性がありますが、これは傾向の説明であり、個別企業の経営状態を判断するものではありません。
産業別ではサービス業他が91件、建設業が55件で、この2業種だけで60.8%を占めました。いずれも人員配置が受注や営業継続に直結しやすい業種です。物流、介護、宿泊など個別業種の影響をこの資料だけで切り分けることはできません。
最低賃金は10月1日から12月2日まで順次発効
厚生労働省によると、2026年度の地域別最低賃金は、全都道府県で54〜65円引き上げる答申がまとまり、全国加重平均の答申額は1,177円です。各地域の改定は10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定とされています。
最低賃金は、発効日以後の労働に対して使用者が支払うべき下限です。都道府県ごとの発効日と時間額は同じではないため、企業は勤務地ごとの一覧を確認し、求人票、試用期間、研修期間を含めた賃金設計を点検する必要があります。
東京では時間額1,280円が10月1日に発効
東京労働局は、東京都最低賃金を時間額1,280円とし、2026年10月1日に発効したと公表しています。改定前の1,226円から54円の引き上げです。都内で事業を営む使用者は、発効後の労働について1,280円以上を支払う必要があります。
賃金の下限が上がると、最低賃金付近の従業員だけでなく、職場内の賃金差を保つために他の従業員の賃金も見直す企業があります。一方、どの企業がどれだけ価格へ転嫁できるかは別問題です。TSRの倒産件数と東京都の改定を同じ原因として結び付けるには、個別企業の追加資料が必要です。
失業率2.5%でも、企業の採用難とは別の指標
総務省統計局の2026年8月分労働力調査では、就業者数は6,849万人、完全失業者数は180万人、完全失業率は季節調整値で2.5%でした。これは労働市場全体の状態を示す統計で、TSRの人手不足倒産240件とは対象も定義も異なります。
失業率が低いことは、企業が人を採用しにくい環境と併存し得ますが、低失業率だけから「倒産の原因は人手不足」とは言えません。求人倍率、賃金、業種、地域、企業の資金繰りを組み合わせて見る必要があります。
生活者への影響は「値上げ」だけではない
人手不足倒産が増えたからといって、直ちに全国一律の値上げやサービス縮小が決まるわけではありません。企業によって、価格改定、営業時間の短縮、省人化投資、採用条件の見直し、事業承継など対応は違います。
読者が確認すべきなのは、利用する店舗やサービスの料金・営業時間・提供条件に具体的な変更があるかです。ニュースの倒産件数だけから、自分の地域や勤務先の状況を推測しないようにします。
企業と働く人が確認したい実務上のポイント
企業は、勤務地の最低賃金額と発効日を確認し、求人票、試用期間、研修期間、固定残業代の扱いを点検します。東京労働局は、最低賃金を下回る求人票は受理できない場合があると案内しています。
厚生労働省は、賃金引き上げと生産性向上を支援する業務改善助成金などを案内しています。利用できる制度、対象経費、申請時期は要件が変わり得るため、厚労省や都道府県労働局の最新案内で確認します。
240件から確認できること、まだ分からないこと
確認できるのは、TSRの定義に基づく2026年度上半期240件という集計、人件費高騰130件という内訳、資本金1千万円未満やサービス業・建設業に多いという分布です。厚労省の最低賃金答申と総務省の労働力調査は、同じ現場を測った統計ではありません。
一方、最低賃金の引き上げが240件の倒産を直接生んだか、倒産企業で働いていた人の雇用や地域の価格がどう変わったか、今後も同じペースで増えるかは、この時点では確認できません。倒産統計、企業の決算、雇用統計、地域の公表資料を継続して照合する必要があります。
出典と確認時点
主な出典は以下のとおりです。TSRの調査は倒産件数と定義、厚生労働省と東京労働局は最低賃金と支援制度、総務省統計局は労働力調査の根拠として使用しました。Yahoo! JAPANのコメント数は関心シグナルとして候補選定にだけ使い、倒産件数や政策効果の根拠にはしていません。
- 東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」(2026年10月5日)
- 厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」(2026年9月3日)
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
- 東京労働局「東京都最低賃金は10月1日から時間額1,280円」(2026年9月30日)
- 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2026年8月分」(2026年10月2日公表)
- 厚生労働省「業務改善助成金」
- Yahoo! JAPAN「人手不足倒産 上半期で過去最多」(コメント1,989件、2026年10月5日15時04分ごろ確認)
確認時点:2026年10月5日15時00分ごろ。TSRの最新公表資料、厚生労働省・東京労働局・総務省統計局の公開資料を確認しました。今後の倒産件数、最低賃金の発効状況、企業の支援制度の要件は更新される可能性があります。
